【セミナーレポート】日本アドバタイザーズ協会と共催「未来への共創─横河電機が挑んだリブランディングの軌跡」

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【セミナーレポート】日本アドバタイザーズ協会と共催「未来への共創─横河電機が挑んだリブランディングの軌跡」

2024-02-28

BtoB コミュニケーションセミナー 「未来への共創─横河電機が挑んだリブランディングの軌跡」

「未来への共創-横河電機が挑んだリブランディングの軌跡」をテーマに、当協会と公益社団法人日本アドバタイザーズ協会共催によるBtoB コミュニケーションセミナーを開催しました。講師に元横河電機㈱マーケティング本部コミュニケーション統括センターセンター長の瀬戸口修氏を迎え、約50名の参加者は同社のブランディングを活用した企業価値の向上施策やブランディングを推進するための体系的な取り組みなど、サステナビリティブランディングの先進事例について伺いました。
 講師の瀬戸口修氏は、1987 年に日本アイ・ビー・エム㈱に入社し、協賛イベント、宣伝、社内コミュニケーション、ブランディング、マーケティングコミュニケーション業務などに従事。2013 年に横河電機㈱に入社し、同社創立100 周年企画、コーポレートブランディング、統合コミュニケーション業務などに従事。コミュニケーション統括センターのセンター長として宣伝、広報、ブランディング、デジタルマーケティングなどを統括してきた。また、昨年10月、過去10 年のブランド活動の集大成『未来への共創-横河電機が挑んだリブランディングの軌跡』の出版をリードしました。
 講演要旨は次の通り。

国内外の社員を巻き込んだブランド再構築への動き

 2015年に創立100年を迎えたタイミングで社内外の様々な要因を背景にリブランディングへの活動が開始されました。リブランディングへの活動が開始されました。グローバルに事業展開している企業にとって、「海外拠点のチームとのコミュニケーションがブランディング成功のカギとなる」との認識のもと、発足されたブランディング推進チームは、四半期ごとにGMT メンバーを含む全員が集まるオンラインミーティングを実施。また、年に1 回、全員が三鷹の本社に集まり、対面ミーティングを行いました。こうした取り組みにより、グローバル・ブランド・マネジメント体制の確立に成功しました。

ブランドスローガン「Co-innovating tomorrow」を発表

 2003年から、制御事業のビジネスコンセプトとして「Vigilance」や「VigilantPlant」を掲げてブランド活動を推進していたが、このビジネスコンセプトは市場や顧客の間では好意的に受け入れられていましたが、2008年のリーマンショックにより起こった環境変化をきっかけに見直しの必要性が出てきました。加えて、2015年の創立100周年を節目に次世代への礎を築く必要に迫られたことなどがあり、現状整理のために、3 つのアプローチからブランドプロポジションを明確にすることとした。
 1つ目は「市場のパーセプション」。市場におけるイメージや顧客の評価、競合他社との差別化について定性・定量調査を行った結果、「YOKOGAWA」のブランドイメージは「対応力」や「クオリティ」で評価されているものの、「VigilantPlant」はこれらをイメージさせておらず、2つのブランドイメージには大きな乖離があることが分かりました。
 2つ目は「企業としての明確な意志」。企業の方向性、経営者の意思、社員の思いについてヒアリングや意識調査を行い、ソリューションカンパニーとしてのイメージチェンジの必要や経営層と対等に話し合える人材の育成、企業の全体像やビジョンを社内外に提示する必要性などが明確になりました。
 3つ目は「独自性を強化していくために何ができるのか」の客観的インサイト。従来からの「高品質」や「遂行力」といったイメージを維持しながら、新鮮で革新的な「新しいブランドビジョン」が必要であることが認識されました。
 これらブランドプロポジションを創立100周年事業と統合し、次期長期経営構想、次期中期経営計画プロジェクトとの連携による変革の加速へつなげることとした。
 2015年9月1日、創立100周年を迎えた記念すべき日に、新たなコーポレート・ブランド・スローガン「Co-innovating tomorrow」を発表。 “Co-innovating”にはお客様とともに長期的なパートナーシップを育みながら、課題解決のための新しい価値を共創していくという思いが込められており、また“tomorrow”には着実に一歩一歩を重ねていくことこそが、“明日”という未来に結びつくという信念を表しています。
 100 周年の当日に当たる2015年9月1日付の新聞各紙に、「Co-innovating tomorrow」を対外的に打ち出す広告を掲載。Web サイトもリニューアルし、ソリューション企業らしいイメージへと一新しました。その後、2023年2月~3月に行った社員向けに行ったブランドスローガン意識調査では、「ブランドを常に意識して業務を進めている」が52%、「業務によって意識している」が36%、合計88% が意識しているという結果に。

中期経営計画の中核として「パーパス」策定へ

2019年から、「Co-innovating tomorrow」を基本思想として、地球の未来についてステークホルダーとの共創を目指すフェーズに向かっていきました。この取り組みに向けて、次のようなメッセージの発信が必要とされました。
 第1は、新たなビジネスへの参入に伴い、IA ビジネスだけでなくライフサイエンス、バイオエコノミーなどの事業領域でも顧客の成長と変革を支援していること、第2は2050年に向けてサステナビリティ目標「Three goals」を掲げ、社会課題解決へ向けてアクションを起こしていること、第3は「Co-innovating tomorrow」を核として、新たなコーポレートメッセージによりネクストジェネレーションなどとの関係性作りを行う必要性があることなど。そこで、「地球の物語の、つづきを話そう。」をタグラインとして、潜在的な顧客、リクルート活動をしている学生、その親世代へ向けて広告を展開。この広告展開は社内外で好意的に受け止められ、一過性ではない“横河電機の未来”を象徴するシンボルのようなものとなりました。
 2021 年に発表された中期経営計画「AccelerateGrowth 2023」の策定においては、「社員はブランディングなどにさらに積極的に参画するもの」と位置付けられ、その中核タスクとして「パーパス」の策定が検討されました。パーパス策定プロセスとして、ブランディング推進チームは、まず全社員に対してWeb アンケートを実施。質問は、①「10年後のYOKOGAWA をどのような会社にしたいか。その理由は」②「YOKOGAWAの存在意義は何か。それに対して、自分自身はどう貢献したいか」の2点。「その理由は」などサブの質問があるのは、社員一人一人が当事者意識を持って回答してもらいたいとの意図によるもの。全世界の5300人を超える社員から1万4000件を超えるコメントが寄せられました。この膨大なコメントを統計的に分析し、回答の傾向を可視化することでキーフレーズを抽出。キーフレーズについて、国内外の若手・中堅社員と社長とがオンラインで対話し、意見交換を行いました。
 こうした経過を経て、2021年5月、中期経営計画の発表に合わせて、Yokogawa’s Purpose「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす。」が発表されました。「測る」には横河電機の原点が込められており、「つなぐ」は様々な価値の結束点となることを意味しています。また、「地球の未来に責任を果たす」は多くの社員から「地球」や「社会貢献」といったワードが多く出てきたことによるもので、ここにパーパス策定への社員参画の結果が強く出ています。
 これとともに企業理念も、その一部が従来の「豊かな人間社会の実現に貢献する」から「持続可能な社会の実現に貢献する」に変更されました。また、Vision statement として「YOKOGAWA は、自律と共生によって持続的な価値を創造し、社会課題の解決をリードしていきます。」が定められました。
 社会環境が激変し、世界情勢が混迷を極めている時代に、ブランディングは立ち止まることなく継続していかなければならない。ブランディング推進チームは2023年3月に「地球の物語の続きを話そう。」の、その次の展開として「物語のつづき。夢のはじまり。」をキャッチコピーとした広告を展開しました。

瀬戸口修氏が考える「ブランディング」とは?

ブランディングとは、一口に言えば、コミットメントと差別化であると考えます。また、ブランディングを推進するためには、論理的、戦略的、体系的に考えるのは必須のことですが、論理的に考え抜いたその先に、理屈を超えた共感の獲得が必要であると考えます。その1 つの手段が広告であり、私は長年、広告を定量的に評価し、論理的・科学的にアプローチすることを心がけてきましたが、その一方で広告には“共感”を作り出す力があると確信しており、広告がつくる共感には多くの可能性と価値があると考えます。

参加者からの質疑応答

 講演の後、質疑応答に移り、参加者から「企業理念とパーパスの関係」「ブランディングとマーケティングのすみわけ」「個人評価への落とし込み」や「社員参画へのエリアごとの温度差」などについて質問がありました。それに対して、「横河電機はなぜ存在するのか」を明確にした上で、「企業理念」「パーパス」「共有する価値観」の体系図を作り、それぞれの役割を明確にしていることを説明。また、パーパスを個人の目標へと落とし込み、目標達成の結果で個人評価していると答えていました。グローバルにみると、社員参画には地域ごとに温度差はあるものの、「社会貢献への意識」はいずれの地域でも高く、同じ方向性に向けていくことができたとのこと。
 また、BtoBにおけるマス広告の役割についての質問には、「マス広告」というより「ターゲット」を明確にして広告を展開しており、企業の認知度向上や事業内容の広告も同じ考えの上で、従来のマス広告とは違う一人ひとりのターゲットを意識した「マス広告」と考えているとお答えいただきました。